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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)5840号 判決 1989年7月14日

原告

伊 東 猪三郎

原告

高 澤 タ ケ

右両名訴訟代理人弁護士

山 下 登司夫

上 柳 敏 郎

被告

リッチアメリカン株式会社

右代表者代表取締役

石 川 博 司

外五名

右六名訴訟代理人弁護士

浅 井   洋

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告伊東猪三郎に対し金七一三万円及びこれ対する昭和六一年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告高澤タケに対し金九0万円及びこれに対する昭和六一年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは無職であって、これまで商品先物取引の経験はなかった。

(二) 被告リッチアメリカン株式会社(以下、「被告会社」という。)は、海外商品先物取引市場における砂糖、コーヒー等上場商品の先物取引の取次等を業とする会社であるが、昭和六一年一一月末ころには事実上業務を停止した。被告石川博司は、昭和六一年一二月ころから被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を執行していた。

被告長谷川勇は、被告会社の常務取締役であり、被告会社の事実上の倒産時まで被告石川と行動を共にし、被告会社の業務全般に関与していた。

被告盛定信は、被告会社の取締役営業部長として、毎日の営業会議や朝礼を主宰していたほか、原告らとの取引にも直接関与した。

被告伊東廣徳は、被告会社の監査役として、その業務全般を監視する立場にあった。

被告瓦吹任は、被告会社の営業部次長として、営業部門の中心的存在であり、原告らを被告会社との取引に勧誘した当初の実行行為者であり、その後原告らの取引の担当者となった。

被告石川は、株式会社ICS等、海外商品取引、国内商品取引を行う会社の営業部門等を昭和四二年ころから経験した後、昭和五九年一二月ころ被告会社のオーナーである訴外内野正也の手引きで被告会社の代表取締役に就任した。また、被告長谷川、同盛、同伊東、同瓦吹は、いずれも株式会社ICSにおいて被告石川の同僚であり、右内野を知っていた縁で、被告石川と同時期から被告会社に入社したものである。

2  被告会社との取引

被告瓦吹は、昭和六一年一月一六日ころ原告らに対し、「砂糖は六年に一度暴騰します。世界的に在庫が少なくなり、今年は上がる年です。」等と言って、ニューヨーク・コーヒー・アンド・ココア取引所(以下「ニューヨーク取引所」という。)の砂糖の商品先物取引について、被告盛定信は、同年三月一四日ころ原告らに対し、同取引所のコーヒーの商品先物取引について、それぞれ被告会社への取引の委託を勧誘した。

右勧誘の結果、原告伊東は昭和六一年一月二0日、原告高澤は同年二月四日、それぞれ被告会社との間で売買取引契約を結び、別紙取引一覧表記載のとおりの経過で被告会社との間で取引が行われ、その商品先物取引委託保証金名下に、被告会社に対し、原告伊東は、昭和六一年二月三日現金一六0万円(うち三0万円は同年五月六日ころ返還された。)を、同年三月二七日ころ株券(ミドリ十字一000株、及び日本新薬二000株)をそれぞれ交付し、原告高澤は同年二月五日現金八0万円(うち一0万円は同年三月二五日ころ返還された。)を交付した。

3  被告らの責任

被告らは原告らに対し、真実は商品先物取引委託保証金名下に金員等を交付させ、自社の向かい玉を建てて、原告らに利益が出る計算になるある時点で原告らの売買の指示に従わず、逆に原告らに損失が出る計算になるある時点で原告らの指示なく売買をすることによって委託保証金を返還しなくてよいようにして、自社玉の益金や手数料分で自己らの利益を得る意思であるのに、右向かい玉の事実や右の意思を秘し、かつ、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(以下、「海外規制法」という。)に違反して、原告らに正常な取引が行われるものと誤信させ、原告らから商品先物取引受託保証金名下に右のとおり金員等を交付させてこれを騙取したものである。

被告会社の右商品先物取引名下の営業は、後記の勧誘の手法、取引の形態のほか、原告らの申入れに誠実に対応しないこと、被告会社の市場に対する注文は後記のとおり売買同数であったため、被告会社の収入は顧客からの委託保証金しかなく、それをほとんどん人件費に費消したものと推測される被告会社の営業の実体、不明朗な経過のうちに営業を停止したこと、原告らと同種の被害者が多数いると推測されることなどから、それ自体違法なものである。

被告石川らは、被告会社において稼働中、被告会社の右営業の違法性や営業の仕組みを認識しながら、毎日営業会議ないし朝礼を行って新規顧客の獲得状況や委託保証金名下に獲得した金額等を報告しあう等、日常的に互いの行動を認識しつつ原告らとの取引を含む被告会社の営業に関与していたものであるから、被告らは共同して本件不法行為をしたものというべきである。

被告らの違法行為の態様は、以下のとおりであり、これらの行為は、詐欺に当たるか、そうでないとしても、総体的に、社会的に許容される限度を超え、相当性を欠くものであるから、公序良俗に反し、違法というべきである。

(一) 海外規制法九条、一0条違反(不実、断定的勧誘方法の禁止)

同条は、海外商品市場における先物取引に関する事項について不実のことを告げる行為や利益が生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘すること等を禁じている。しかるに、例えば、被告瓦吹は原告らに対し、昭和六一年一月一六日ころ、「砂糖は六年に一度暴騰します。世界的に在庫が少なくなり、今年は上がる年です。」等と断定的な説明をして、ニューヨーク取引所の砂糖の商品先物取引について、被告会社への委託を勧誘した。

(二) 海外規制法一0条四号違反(無断売買の禁止)

同号は、受託者が顧客の指示を受けないでする、いわゆる無断売買を禁止している。しかるに、例えば、被告石川は原告伊東に対し、昭和六一年五月八日、「七日に伊東宅に電話を入れたが誰も出なかった。そこで石川の判断において、同日会社の指し値でコーヒー建て玉一二枚を全部売却し成立させた。なお三万円の不足額が出るので後で請求する。」旨述べ、七日に原告に無断で取引し、手仕舞った。

(三) 海外規制法一0条五号違反(保証金返還遅滞)

同号は、海外商品先物取引契約に基づく債務の履行を拒否し、又は不当に遅延させることを禁じている。しかるに、被告盛定信や被告石川は、原告伊東が昭和六一年四月二三日保証金のうち金三0万円の返還を請求したのに対し、言を左右にして、同年五月六日ころまで同金員の返還を遅滞した。そして、この間に次の売付け拒否を続けて、損金を出す操作を行っていたのである。

(四) 海外規制法一0条五号違反(売付け遅滞)

同号はまた、海外商品先物取引契約に基づく売付けの履行を拒否し、又は不当に遅延させることを禁止している。しかるに、被告盛定信は昭和六一年四月二三日、原告伊東から売付け手仕舞いの注文を受けながら、これを履行しなかった。そして、前記(二)のとおり、後日無断売付けをして、結局損金が出た形式を作ったのである。

(五) 呑み行為の疑い

被告会社は、顧客からシカゴやニューヨーク市場での商品先物取引の売買の取次注文を受けると、被告会社と同じビルの同じフロアにある訴外ボーデンシー社を経由して、アメリカのアイオワ・グレイン・カンパニーに売買の注文を出し、同社がニューヨーク市場で売買を行う方法をとっていたという。しかし、原告らは、本件において被告らから右取次を裏付ける書証がなんら提出されていないことからみて、被告会社は、実際には顧客の注文をなんら取り次ぐことなく、いわゆる呑み行為をしていたものと考えている。これが違法であることは言うまでもない。

(六) 向かい玉

被告会社は、前記ボーデンシー社経由のアイオワ・グレイン・カンパニーに対する注文の際、顧客からの売りの注文と買いの注文の差の分について、被告会社の勘定で向かい玉を建てていた。向かい玉とは、客の売買注文に対応して先物取引会社が同時期、同数の売買注文を出すものであり、損益の決済はすべて会社と客との間で行われることになる。客が損をすれば、その分会社の利益となり、帳簿上の処理だけで客の保証金を会社の益金扱いにして、自己の収入とすることが可能となる。逆に客に利益が出ると、手仕舞いを要求しても決済を引き延ばし、客に損が出た段階でようやく手仕舞いをする。こうして会社は、取引手数料だけでなく、客の売買上の損までも自社の利益として取り込むことができる。

本件において被告らは、向かい玉の事実を自認しているが、原告らとの取引中は、このような向かい玉の作用及び客にとっての危険性を十分知りながら、原告らに対し、右向かい玉の事実及び取次に当たってのボーデンシー社介在の事実を、全く説明せず、秘匿していた。そして、原告らに利益が出た昭和六一年四月二三日の段階で、原告らが手仕舞いの要求をしたのに、これに応じず、引き延ばしを図った上、同年五月七日、原告らが損状態になった時点で手仕舞いをした。

4  損害

原告らは、被告らの行為により、次のとおり損害を被った。

(一) 物的損害

原告伊東は、現金一三0万円及び被告会社に交付した株券の当時の時価相当の金四八三万円(ミドリ十字一000株の昭和六一年三月二六日の終値、一株二0七0円、金二0七万円、日本新薬二000株の右同日の終値、一株一三八0円、金二七六万円)の合計六一三万円。

原告高澤は、現金七0万円。

(二) 精神的損害

被告らから受けた精神的損害に対する慰謝料は、原告伊東については金五0万円、原告高澤については金一0万円を下らない。

(三) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟を原告ら訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったところ、日弁連の報酬等基準規程によれば、原告らが支払うべき弁護士費用は、原告伊東については金五0万円、原告高澤については金一0万円を下らない。

5  よって、被告らの不法行為に基づく損害賠償請求として、被告らに対し、原告伊東は金七一三万円及びこれに対する不法行為時である昭和六一年三月二七日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告高澤は金九0万円及びこれに対する不法行為時である同年二月三日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)は不知。

原告伊東は、元文京区議会議員であり、株式の取引の経験が豊富であった。また、商品先物取引には研究熱心で、最初の注文をなす前から、被告瓦吹に対し、業界紙を送らせていた。なお、原告高澤の取引は、すべて原告伊東が決定していた。

請求原因1(二)のうち、被告らの業務内容、地位、経歴は認めるが、その余の事実は否認する。

被告盛定信は、昭和六一年四月三日ころ、被告会社を退職している。また、被告伊東は、名義上監査役ではあるが、報酬を得たことも、業務に関与したこともない。

2  請求原因2の事実は、概ね認める。ただし、被告瓦吹の勧誘内容はニュアンスが多少異なる。即ち、被告瓦吹は、過去一二年間の罫線を見せ、そこに砂糖の値動きは五年ないし七年の周期で存在することを示して、現在底値圏内と見られる旨、またブラジル等砂糖の生産圏が異常気象にあることが新聞等で報道されていることを示して、今後値上がりすると思う旨の相場観を述べて勧誘したものである。

なお、原告伊東への金三0万円、原告高澤への金一0万円の支払は、いずれも利益金の支払である(原告高澤の預託残金は七0万円)。また、原告伊東には同年三月二七日砂糖の取引の利益金四七万四六0五円と、コーヒー取引の保証金から金二二万五三九五円、合計金七0万円を支払っている(原告伊東の委託保証金は、現金六0万円のほか、同原告主張の株券を同原告の承諾を得て同年四月七日に売却し、その代金五0二万四二四0円を保証金に振り替えている。)。

3  請求原因3前段のうち、被告らが営業会議や朝礼を行って、新規顧客の獲得状況や証拠金の預託額を報告していたことはあるが、その余の事実及び主張は争う。被告長谷川及び被告伊東は、原告らの取引についてなんら関与していない。

(一) 請求原因3(一)は否認する。

(二) 請求原因3(二)のうち、被告会社が昭和六一年五月七日原告らが取引していたニューヨーク取引所のコーヒーの取引全部の手仕舞いをしたことは認めるが、それが無断売買であることは争う。

同年五月六日相場が急落し、委託保証金以上の損失が発生しそうになった。しかし、同年四月末ころ原告伊東は、新たに委託保証金は入れない旨、被告石川に述べていたため、六日被告石川が原告伊東に連絡をとったが、連絡がとれなかった。そこで、やむなく同月七日、被告石川において逆指し値をして、それを超えれば手仕舞う、超えなければ取引を継続することと決め、原告の承諾を得られないまま同月七日原告らのコーヒーの買玉を全て手仕舞ったため、逆指し値で売注文を出した。その結果、相場がそのように動いたため、この注文が成立し、原告らの取引は終了したものである。このように、相場の急落により、原告らの建玉は追証を必要とする状況にあり、被告会社では追証を請求して、その支払がなければ建玉を決済できる状況にあった。しかし、原告伊東に連絡がつかず、仮に追証を請求しても原告伊東は支払う意思がなかったのであるから、右の措置はやむを得ない緊急の措置というべきである。また、結果としても、その後相場は回復せず、もし放置すれば損失が増大していたから、原告らとしても、無断売買を理由に損害賠償を請求できる損害はない。

(三) 請求原因3(三)の事実は否認する。昭和六一年四月二三日に被告盛定信や被告石川が、金三0万円の返還を求められた事実はない。

(四) 請求原因3(四)の事実は否認する。被告盛定信は、この時期には既に被告会社を退職していて、原告伊東からの注文を受けうる立場にいなかった。

それまでの取引経過を見ると、三月中旬から四月四日までは値下がりが続き、原告らも値下がりに応じて最終四月一五日まで次々と買いを建て、難平買いをしてこの値下がりをしのいだ。四月五日から相場も上昇に転じ、この難平買いが効果を示し始めた時である。まだ損失は回復せず、これから更に利益が出てくるという状況の時である。このような時に手仕舞いを求めることは、通常の相場心理としてはあり得ない。また、四月末日、被告石川が原告伊東と会ったとき、手仕舞いの件で苦情をいわれたこともなく、原告伊東は、五月八日まで値動きの罫線をつけていたのである。

(五) 請求原因3(五)のうち、前段の被告会社の取引の仕組みは認め、その余は否認する。被告会社は倒産し、資料が散逸したため、取次に関する資料を提出できないだけである。

(六) 請求原因3(六)のうち、被告会社が常にではないが、差玉向かいをして、売買を同数にしてボーデンシー社を経由して注文を出していたこと、原告らを含む顧客に、差玉向かいの事実及び取次に当たってのボーデンシー社介在の事実を説明していなかったこと、及び同年五月七日に原告らの全取引の手仕舞いをしたことは、認めるが、その余の事実は否認する。被告らは、原告らから四月二三日段階で手仕舞いの指示を受けたことはない。

4  請求原因4のうち、原告高澤について仮に損金計算をしなければ、預託金残金が七0万円であることは認め、その余は争う。

原告伊東の預託金残金が一三0万円であることは否認する。仮に損金計算をしないとしても、残金は六0万円である。株券は、前記のとおり原告伊東の承諾を得て売却した。株券の価格換算の時期も争う。

(向かい玉に関する被告らの主張)

(一) 向かい玉とは、委託者の売買に対応し、これに合わせて商品取引員が商品市場において行う自己売買をいう。取引員は取引所における売買を委託者の委託を受けて行うこともできるが、他方、取引買も自ら商品市場において売買することもできる。委託者の委託に基づき委託者の計算で行う売買を委託玉、取引員の計算で行う売買を自己玉という。商品市場において行う自己取引であるから、商品市場で売買しないで取引員が委託者の相手方となって売買を成立させる呑み行為とは全く異なる。向かい玉の取引上の作用はさまざまであり、一概に委託者にとって不利とはいえない。

(二) 向かい玉は委託玉と売買のポジションが対当するものではあるが、「委託玉に対当させて建てる自己玉」ではない。「建てる」場合も「落ちる」場合もある。商品先物取引においては、委託玉も自己玉も、新規に売建て又は買建てするばかりでなく、建てた玉を転売又は買戻し、差益、差損の授受によって決済が行われるのである。

(三) 被告会社が行うことがあった差玉向かい(委託者の総売買数量に対応して、売買同数になるようにする自己売買)では、例えば、A客一0枚買い、B客五枚売りのときに、買と売の差五枚の買に対し、自社が五枚の売を建てるのである。次に、C客が買三枚、D客が売五枚を出したとすれば、会社は、手数料を少なくするため、差玉の二枚の売に対して自社玉二枚の買を出すことはせず、自社の五枚売のうち二枚を売落とす注文を出す。これにより、建玉はA客一0枚買い、C客三枚買い、B客五枚売り、D客五枚売り、自社三枚売りという構成になる。

このように、差玉向かいでは、客の建に対し自社の落注文で向かうことは頻繁に行われているし、同じ建でもA客とは向かうがB客とは同方向となることも多い。加えて、場、節が異なるごとに対向関係も次々と変化する。

したがって、委託玉が買い、自己玉が売りで、そのポジションは対当している場合でも、委託玉が買落(決済玉)で、自己玉が売建(新規売)である場合もあり、この場合には、委託玉は買決済によりその時点で損益が確定してしまうから、取引員の対応している向かい玉(売玉)がその後の相場の動向によって損になろうと益になろうと、委託玉の損益とは関係がない。逆に、委託玉が買建(新規買)をする場合に、既存の取引員の自己玉(買玉)を売落する場合もあり、この場合においても、委託の買玉と自己の売玉が対当したからといって、自己玉の損益はその時点で確定してしまうのであるから、右委託玉の損益との間に相反対立関係を生じることはない。すなわち、委託玉と自己玉の売り買いが対当してその自己玉が向かい玉といわれる場合でも、一方が建玉であり他方が決済玉である場合には、その後の相場の動向による新規建玉の損益とは全く関係がなく、決済により損益の確定してしまう委託玉とは「相反対立する関係」を生じる余地はない。要するに、向かい玉が常に顧客と利害相対立するものとする原告らの主張は誤りである。

(四) 商品先物取引においては、相場変動の正確な予測も、相場操縦も不可能であるから、向かい玉が有利になるか、委託玉が有利になるかは決せられず、取引員が顧客に無断で向かい玉を建てたからといって、そのこと自体が顧客に対する不法行為を構成することはない。

(五) 現行商品取引所制度では、会員たる商品取引員の自己売買が認められているから、制度上は、委託者の一部の売買と対立する売買が必ず一時的には成立するが、それは取引員と委託者との対立ではない。商品先物取引は、不特定多数の売集団と買集団の単一約定値段による競争売買によって成り立っているから、ある時点での売集団と買集団との間に損益が相反対立することはあっても、個々の委託者の注文はそもそもその個性を失っており、商品取引員の自己玉も委託玉もない。したがって、商品先物取引制度上、向かい玉が、顧客と取引員との利害を相反対立させると考えるべきものではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1のうち、被告会社の業務目的、その余の被告らの経歴及び被告会社における地位については、いずれも当事者間に争いがない。

二請求原因2の事実は、昭和六一年一月一六日ころの被告瓦吹の原告らに対する勧誘の仕方を除き、原告らの被告会社との取引経過、原告らの商品先物取引委託保証金名下の現金ないし株券交付の事実は、概ね当事者間に争いがない。

三そこで、請求原因3において原告らが被告らの違法行為として指摘する点について、以下、順次検討する。

1  被告らの勧誘方法(請求原因3(一))

<証拠>によれば、被告瓦吹及び被告盛定信の原告らに対する勧誘は、次のようなものであったものと認められる。

原告伊東は、昭和六一年一月一六日ころ、被告瓦吹から、被告会社が取り次ぐニューヨーク取引所の砂糖の商品先物取引について、電話による勧誘を受け、同月二0日ころ同被告の訪問勧誘を受けた。

被告瓦吹は、原告伊東に対し、前記取引所における最近一0年余の砂糖の相場の動きを示すグラフなどが掲載された砂糖の先物取引に関する被告会社の説明パンフレットを示して、取引の仕組み、方法などを説明した上、砂糖は六年に一度位の周期で暴騰すること、世界的に在庫が少なくなり、今年は上がる年に当たることなどの見通しを述べて砂糖の先物取引を勧誘し、二週間経過しないと自宅での取引はできないが、一週間後からは、会社でならば取引できる旨を説明した。

原告伊東は、この勧誘に応じることとし、同日、被告会社相手の売買取引契約書に調印し、被告瓦吹から受け取った海外商品取引における先物取引委託の手引、売買契約書別紙(委託者が受託者に預託する保証金の定め)、及びリスク開示告知書にそれぞれ署名押印した。

原告伊東は、一週間後の同月二七日、被告会社を訪ね、被告瓦吹及び被告盛定信の応対を受けた。そこで原告伊東は、被告会社に対する砂糖の先物取引の委託保証金として、日本舗道の株券一000株を預託し、同日、砂糖二枚の買い建てを最初として、被告会社との委託取引を開始した。

原告伊東は、同年三月六日及び一一日に、砂糖の買い玉二枚ずつを売り決済して、被告会社への手数料を除いても四七万円余の利益を上げ、模様見をしていたところ、同月一四日ころ、被告瓦吹及び被告盛定信の来訪を受け、同被告らから、コーヒーが急騰して利益が上がるとして、ニューヨーク取引所のコーヒー相場の罫線グラフ等の資料を渡され、説明、勧誘を受けた。原告伊東は、この勧誘に応じ、同月一四日のコーヒー一枚買い建てを最初として、別紙取引一覧表のとおり、被告会社との間でコーヒーの委託取引が行われた。

原告高澤は、直接被告らから勧誘を受けたものではないが、同居の兄原告伊東の勧めで、原告伊東に被告会社との取引を一任した結果、原告伊東において被告瓦吹の前記勧誘に応じ、昭和六一年二月四日、被告会社相手の売買契約取引書に原告高澤の署名を代筆して調印し、被告瓦吹から受け取った海外商品取引における先物取引委託の手引、売買契約書別紙(委託者が受託者に預託する保証金の定め)にそれぞれ原告高澤の署名を代筆、押印した。リスク開示告知書には、原告高澤が自ら署名捺印した。そして、同月四日、原告高澤は、砂糖二枚の買い建てを最初として、被告会社との委託取引を開始し、遅れて同月五日、被告会社に対し、砂糖の先物取引の委託保証金として、金八0万円を預託した。

原告高澤は、同年三月六日、前記砂糖二枚を売り決済して、被告会社への手数料を除いても二四万円の利益を上げた後、同月一四日ころ、前記のとおり被告瓦吹及び被告盛定信からコーヒーの先物取引の勧誘を受けた原告伊東を通して、同日のコーヒー一枚の買い建てを最初として別紙取引一覧表のとおり、被告会社との間でコーヒーの委託取引が行われた。

以上のとおり認められる。原告伊東本人尋問の結果中には、被告瓦吹は原告伊東に対し、砂糖の相場が今年は確実に上がることを強調して勧誘した旨の供述があるが、他方、同原告は、被告瓦吹から、商品先物取引の危険性についても一応の説明を受け、前記のとおりリスク開示書も受領している上、以前株式の信用取引の経験もあって、十分な判断力と研究心をもって本件取引を開始したことが、同原告本人尋問の結果により認められるから、被告瓦吹がそのような勧誘の仕方をしたとしても、右認定の被告瓦吹らの一連の勧誘行為が、それ自体、詐欺又は公序良俗に反するものとは到底いえない。

2  保証金返還遅滞(請求原因3(三))

<証拠>によれば、原告伊東は、昭和六一年五月一日ころ被告石川と会い、当時被告会社が保持していた原告伊東のコーヒー取引による利益金のうち金三0万円を同原告に支払うよう求めたところ、同被告は、被告会社の資金難を理由に、連休明けまで待ってくれるよう頼み、同原告もやむを得ずそれ以上の追及をせずに別れ、同月六日、被告会社から原告伊東に対し、金三0万円が振込送金されたことが認められる。

右事実によれば原告伊東に対する利益金の支払が数日遅延したとしても、これについて原告伊東は、不本意ながらも同意していたものと認められるから、この程度の支払遅滞をもって、原告伊東と被告会社の本件取引が、詐欺又は公序良俗に反するものということはできない。

3  売り付け遅滞(請求原因3(四))

原告伊東は、その本人尋問において、昭和六一年四月一七日ころ来訪した被告盛定信に対し、コーヒーの値動きが激しいので、買い玉を売って逃げ切りたい意向を伝えた上、同月二三日ころ、被告会社に電話し、応対した被告会社の従業員の誰かに対し、建て玉の売り処分を指示したが、被告会社はこれに従わなかった旨供述している。

しかしながら、この点に関する原告伊東の供述は、いささか曖昧であるのみならず、<証拠>によれば、被告盛定信は、昭和六一年三月末には被告会社を退職していたことが認められ(<証拠>の原告らに関する同年四月以降の売買取引報告書、売買受注伝票の担当責任者欄には、被告盛定信のゴム印が押されているが、これをもって、当時被告盛定信が被告会社に在社して、原告伊東と応対したことの証拠とするには足りない。)、また、原告伊東が同年五月一日ころ、金三0万円の利益金の支払を求めて被告石川と会ったことは、前認定のとおりであるが、<証拠>によれば、原告伊東は、その際被告石川に対し、四月二三日ころの手仕舞い指示に関して、なんら話題にしなかったことが認められ、<証拠>によれば、原告伊東は、同年五月八日ころまでコーヒー相場の日足の罫線を付けていたことが認められる。これらの事実に照らせば、原告伊東の前記供述は、そのままの趣旨ではにわかに採用できず、原告伊東が同年四月二三日ころ、被告会社に対し、少なくとも、確定的に手仕舞いの指示をしたことを認めるには足りないと言わざるを得ない。

4  無断売買(請求原因3(二))

被告会社が、昭和六一年五月七日、ニューヨーク取引所の原告らのコーヒーの建て玉全部を売り、手仕舞いしたこと、及びその手仕舞いについて被告会社が原告らの事前の指示もしくは承諾を受けなかったことは当事者間に争いがない。

ところで、<証拠>によれば、被告会社が原告らの事前の指示もしくは承諾なしに手仕舞いをしたのは、次のような事情によるものであったことが認められる。

原告らと被告会社との本件売買取引契約においては、委託者が不足保証金を預託の期限が経過しても預託しないとき及び受託者の定める日までに決済に関する具体的申し出のないときは、受託者は、受託者の定めた日の翌営業日(納会日)に、当該売買取引を委託者の計算において反対売買をして決済をすることができること、受託者は、委託を受けた売買取引の全部又は一部が委託者の指示による転売又は買戻しにより決済されたときは、委託者との間で各売買取引の売買差金及び所定の手数料の計算を行うこと、その計算の結果、委託者から受託者に支払うべき債務金額を生じたときは、受託者は、通知催告を要せず委託者から預託を受けている保証金の返還債務と対当額において相殺することができ、もし不足を生じたときは、不足する金額を委託者に請求し、その預託もしくは支払を受けることができること(以上、売買取引契約書六条)、追加保証金は、委託した売買取引がその後の相場の変動により損計算となり、且つその金額が当該商品ごとの売買取引について預託された基本保証金の五0パーセント相当額以上となった場合に預託すること、その金額は基本保証金の一00パーセントを満たす額とし、その預託は、その場合の生じた日の翌営業日の午後二時までに預託すること(以上、同一0条)、受託者が、所定の保証金並びに不足する保証金を定めに従って預託しない場合、受託者は、委託者の建て玉の全部又は一部を委託者の計算により任意に決済することができること(同一一条)、以上の約定があった。

ところが、昭和六一年五月六日ニューヨーク取引所におけるコーヒーの相場が大暴落し、原告らの買い建て玉(原告伊東につき一0枚、原告高澤につき二枚)をそのまま維持するとすれば、相当の追加保証金を被告会社に預託しなければならない事態となった。被告石川は、同日原告伊東に手仕舞いの承諾を得るべく、何回となく電話連絡したが通話できず、同原告が四月末ないし五月一日ころの被告石川とのやりとりの中でこれ以上の資金の注入は無理であるとの意向を表明していたことから、これ以上放置すれば原告らの損害が拡大するばかりであり、後日追加保証金の預託を求めるのも無理であると判断し、やむを得ず、同日午後六時の、日本におけるアメリカヘの取次会社ボーデンシー社の取次締切時間前に、一枚二ドル二六セント一六ポイントで逆指し値による全建て玉の売り決済の注文を出したところ、翌五月七日、二ドル二六セント一0ポイントで売買が成立し、原告らの全取引の手仕舞いが行われた。五月八日、被告石川は原告伊東と電話連絡がとれ、手仕舞いの結果を報告したところ、原告伊東は、難平、両建など何か損害を防ぐ方法があったのではないかとして、不満の意を表明した。

右の手仕舞いの結果、被告会社は、原告伊東から委託保証金として預かっていた株券を売却処分した他、原告らの委託保証金現金、従前の売買取引による利益金をすべて損金、手数料に充当し、原告ら合わせて、約三万円の不足金が生じる結果となった。

ニューヨーク取引所における砂糖の相場は、五月七日以降も、多少の波はあるものの、同年七月下旬ころまで下落傾向をたどった。

右認定の事実によれば、被告会社のした五月七日の原告らの取引の手仕舞いは、原告らの指示、承諾に基づかないものであったとはいえ、前記本件売買取引の約定と事実の経過の下で、原告ら及び被告会社の損害の拡大を防止するためにとった止むを得ない措置であり、未だ原告らに対する違法行為と評価するには足りないと認めるのが相当である。

5  呑み行為の疑い(請求原因3(五))

<証拠>によれば、被告会社は、日本における取次業者であるボーデンシー社にニューヨーク取引所における売買取引の注文を出し、ボーデンシー社はニューヨーク取引所の正会員であるアイオワ・グレイン・カンパニーに売買の注文を取り次ぐ方法をとっていたことが認められる。被告会社が原告らの売買取引の注文を右の方法で取り次がず、書類上でのみ操作する、いわゆる呑み行為をしていたことを認めるべき証拠は、何もない。

6  向かい玉(請求原因3(六))

被告会社が、常にではないが差玉向かいをして、売買同数にしてボーデンシー社経由で注文を出していたことは、当事者間に争いがない。

右事実と<証拠>によれば、被告石川、被告長谷川、被告盛定信、被告伊東、被告瓦吹らは、もと海外商品先物取引業の株式会社ICSに勤務していたところ、同社倒産後の昭和五九年一二月ころ、被告石川が代表取締役として、被告瓦吹を除くその余の被告らは取締役又は監査役(非常勤)として被告会社の経営を引き継いだこと、その当時、同被告らが引き継いだ被告会社の安定的な顧客は約一00人、その後昭和六二年二月ころ事実上被告会社が倒産して営業停止するまでに新たに獲得した顧客は、二0人ないし三0人であったこと、被告会社が、これら顧客の売買注文をボーデンシー社、アイオワ・グレイン・カンパニーを経由してニューヨーク取引所に取り次ぐに際しては、多くの場合、客の売買注文総数量に対応して、売買同数量になるよう、いわゆる差玉向かいとして、自己玉による売り又は買いの取引を注文していたことが、それぞれ認められる。

原告らは、向かい玉は、このような差玉向かいであっても、顧客の損失において先物取引会社が利益を得る仕組みになっており、被告らは、向かい玉のこの作用と客にとっての危険性を知りながら、原告らに対しその説明をせず、秘匿していたから、違法である旨主張する。

なるほど、向かい玉による取引の場合は、差玉向かいの場合であっても、相場の変動があって全顧客の未決済取引の総体に評価損(益)が生じたときは、これと反対の関係にたつ取引業者の未決済取引の総体に評価益(損)が生じる関係にあるといえるから、その意味では、両者の利害は原則として相反することになる。しかも、取引業者は通常、顧客より優れた先物取引に関する技術、情報量を駆使して、自己玉による取引益及び手数料を稼ごうとするであろうから、取引業者の利益が確実に約束される限り、必ず顧客は損失を被ることになり、そのような危険のある取引方法をとること自体、取引業者の善管注意義務違反、あるいは公序良俗違反により、違法の評価を免れないであろう。

しかしながら、取引業者が確実に利益を上げるためには、先物取引市場において相場を自由にコントロールできるか、少なくとも相場の変動を確実に予測できることが必要であるというべきところ、優れた取引業者といえどもそのような作為等ができるはずもないことは、周知のとおりである。したがって、取引業者の自己玉による図利も、所詮は不確実なものというほかはないから、差玉向かいが一般的に全顧客と取引業者の間で利害相反する関係にたつからといって、そのこと自体から、直ちに差玉向かいの取引方法自体、あるいは差玉向かいの取引方法をとることについて顧客に告げないことが違法であるということはできない。

もっとも、差玉向かいにおいては、顧客全体と取引業者の利害が相反する関係にあることは、図利を目的とする取引業者にとって誘惑的な方法でもあり、原告らの主張のような、顧客に対する不実、断定的勧誘、無断売買、保証金返還遅滞、売り付け遅滞、呑み行為の他の違法、不当な行為と相まって、顧客の損失において取引業者の利益を図り、損失を防止、軽減するのに有効な方法となり得るのであって、そのような場合は、差玉向かいの取引を含む全体としての勧誘、取引行為が、善管注意義務違反となり、あるいは詐欺、公序良俗違反の不法行為を構成することもあり得る。

<証拠>によれば、被告石川は、相場の変動により、顧客が受けた損失を被告会社が回収できなくなる危険を保障するため、差玉向かいをした旨供述しており、差玉向かいにより、売買同数として注文する結果、通常ならばボーデンシー社経由でアメリカのアイオワ・グレイン・カンパニーに送金しなければならない売買証拠金(保証金)を送金する必要がなくなるため、その分顧客からの預託保証金のある部分を、被告会社において利用ないし運用できる利点があったことも否定していない。しかしながら、原告ら主張の、顧客に対する不実、断定的勧誘、無断売買、保証金返還遅滞、売り付け遅滞、呑み行為等の事実が認められないことは前認定のとおりである。のみならず、右各証拠によれば、被告会社の差玉向かいにおいては、顧客の委託玉と被告会社の自己玉の両者を含む売り又は買い注文が、顧客の委託玉であるその反対の買い又は売り注文と同時に同一値段で成立するわけではないことが認められ、他方、本件全証拠によっても、原告らの各取引における損(益)に対応して被告会社の益(損)が生じたこと、もしくは、被告会社の全顧客の損(益)に対応して被告会社の益(損)が発生したこと、更には、被告会社が顧客の損失において自社の利益を図るため差玉向かいをしたことを認めるべき証拠はないのである。

なお、被告会社の経営がかなり苦しいものであったことは、後記認定のとおりであるが、この点を考慮に入れても、被告会社が行った差玉向かいがそれ自体違法であるとか、違法行為の手段として行われたものと認めるには足りない。

7  被告会社の営業の実体(請求原因3前段)

<証拠>によれば、被告会社の営業状況は、次のようなものであったことが認められる。

被告石川らが被告会社の経営を引き継いだ昭和五九年一二月当時、被告会社と取引中の顧客は約二00人、預託保証金は約二億四000万円であったが、そのうち約半数の顧客から解約、委託保証金の返還の請求を受けたため、被告石川らの経営は、その当初からかなり苦しいものとなった。

その結果、被告石川らは、安定的な顧客約一00人、預託保証金約六000万円ないし八000万円、預金、現金等約二000万円、賃借ビルに預託中の保証金四000万円余で、被告会社の経営に当たったが、もともと、被告会社の確実な収入源としては、顧客の取引による手数料のみであったから(被告石川は、被告会社の自己玉による取引では、結局、損失であったという。)、その収入の半分近くが人件費にかかる状況であり、一時社員を増員し、新潟、仙台に支店を新設するなどして業績の向上に努力したが、赤字が続き、昭和六0年九月には新潟支店を閉鎖、原告らの取引中の昭和六一年四月には仙台支店を開店後三か月にして閉鎖し、人員削減をした(被告盛定信が同年三月末に退社したことは前認定のとおりであり、<証拠>によれば、被告瓦吹も同年三月一五日ころには退社し、三月末ころには被告石川、被告長谷川ら三ないし四人が残るのみであった。)。

その後石川らは、解約して委託保証金の返還を求める顧客と対応しつつ、資金導入により業績の挽回を図ろうとしたが、同年九月ころ及び一一月ころ、期待した資金導入に失敗して、廃業のやむなきに至り、同年一一月二七日付けで、その当時の顧客に対し、「営業業務停止のお知らせとお詫び」の書面を発した。

以上認定の事実によれば、原告らの取引開始当時、被告会社の経営は既に悪化していたことが明らかであるが、このような状況の下でも、商品先物取引の勧誘をすること自体が詐欺、もしくは公序良俗に反するものとして不法行為に当たるとまではいえず、勧誘に当たって、当時の被告会社の経営状態を正直に告知すべきであるとすることもできない。原告らは、先に認定したとおり、原告伊東の十分な判断力と研究心をもって本件取引を開始し、継続したものという他はなく、右認定の被告会社の経営状態と、前記認定の原告らの取引手仕舞い及び差玉向かい等の状況を合わせて考察しても、右の判断を動かすには足りない。

四以上の次第で、被告らの行為が不法行為に当たるものとは認められないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は、いずれも理由がなく、棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官荒井史男)

別紙

取引一覧表

甲号証

取引日付

商品

売買別

新規仕切別

数量

差引損益金(円)

(原告伊東猪三郎分)

1三の一

一.二七

砂糖

買付

新規

2  二

二.一九

砂糖

買付

新規

3  三

三.六

砂糖

売付

仕切(2)

益 三一二、〇八一

4  四

三.一一

砂糖

売付

仕切(1)

益 一六二、五二四

5  五

三.一四

珈琲

買付

新規

6  六

三.一七

珈琲

買付

新規

7  七

三.二四

珈琲

買付

新規

8  八

三.二五

珈琲

売付

新規

9  九

四.七

珈琲

買付

仕切(8)

益二、四二七、五〇〇

10 一〇

四.九

珈琲

買付

新規

11 一一

四.一一

珈琲

買付

新規

12 一二

四.一五

珈琲

買付

新規

13 一三

五.七

珈琲

売付

仕切(5)

損一、八四五、四七五

14 一三

五.七

珈琲

売付

仕切(6)

損一、六三七、七五五

15 一三

五.七

珈琲

売付

仕切(7)

損一、九八五、七八〇

16 一三

五.七

珈琲

売付

仕切(10)

損 五五九、六三六

17 一三

五.七

珈琲

売付

仕切(11)

損一、二一六、九〇二

18 一四

五.七

珈琲

売付

仕切(12)

損 六四六、四四五

(原告髙澤タケ分)

1

二.四

砂糖

買付

新規

2五の一

三.六

砂糖

売付

仕切(1)

益 二四七、四〇八

3  二

三.一四

珈琲

買付

新規

4  三

三.二四

珈琲

買付

新規

5  四

三.二五

珈琲

売付

新規

6  五

四.七

珈琲

買付

仕切(5)

益一、二二七、三四三

7  六

五.七

珈琲

売付

仕切(3)

損一、八四五、四七五

8  六

五.七

珈琲

売付

仕切(4)

損 九九二、八九〇

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